第4回 はだかで石をひろう

みなさまどうも!富田です。すっかり暑さも落ち着いて過ごしやすい……というか寒めの日々のベルリンです。あんなにこんがり焼いてきた太陽もすっかり姿を見せなくなり、私はこれまで生きてきて初めてダウンを買いました。ずっと「いや〜見た目大きくなるからな〜」と渋っていたんですが、いや見た目とかどうでもよくなるくらいに暖かいです。羽毛はすごい。

さて今回は前回に引き続き「いいよねarm aber sexyだしさ!」という題でベルリン市長の言う「都市のセクシーさ」についてお話をし……たかったんですが、やっぱり路線を変更してお送りいたします。今回は「えっ家を見つけられないのもセクシーさなんですか!?」です。 そんなわけで今回は人生や先行事例に舐めた態度で接したためにホームレスになった話をします。

①ホームレスになった経緯
日本にいた時の私は割と危機感が働いていたようでベルリン到着後3ヶ月(6~8月)は居場所を確保していました。そのあとについては渡航後の自分に託していましたが、すっかり忘れて(というか腐って)語学や遊びや制作などに気を取られうかうかしていた私、気づけば家の退去日1ヶ月前でした。この時私より後に退去する友人はもう家探しを始めていましたが、私は「まあなんとかなるでしょう、最悪野宿すればいいや〜」と余裕の表情でした。あの頃の自分に本気の説教をしたく思います。

そんなこんなで退去3週間前くらいになってようやく腰をあげ家探しサイトに広告を出しました。(私部屋探しています!と自分の広告を出すことができます。ベルリンの家事情は日本と違っていて、一人暮らしの完結するアパートよりもキッチンやお風呂が共同のフラットシェアが主流、そのため家主さんやルームメイトとの面接がほぼ必ず要求されます)この時完全に舐めきっていたので返信がちょっと遅れることがしばしばありました。英語やドイツ語でやりとりをするのはまあまあ体力を使うので、「明日やろう〜」と腐ってばかりいたのです。

1件すごくいい家のオファーをいただいて、面接も好感触で、これはすんなり決まるんじゃないかな〜チョロいじゃん!やった!と浮かれていました。この時までは。そしてなんとかなるでしょ!と私は浮かれてパリへと遊びに行きました。無事に退去日を迎えた私ですが、全然無事じゃなかったです。「あなたももうひとりの住みたいと言っていた子も、どちらもいい子だったから迷ったんだけど……先にメールに返事してくれた子に部屋を貸すことにするわ。部屋探し頑張ってね!」とのことでした。泣きました。
そういうわけで私は旅中に帰る家をなくし、マジか……て感じでした。

焦りに焦って広告をもう一度出します。旅と家探しを並行して行いました。
今度はちょっとびっくりするくらい好条件の部屋のオファーが来て、絶対に逃したくなかった私はかなり丁重に文章を作り(相手は私より少し年上の女性で、観光学を学んでいるとのことでした)相手はとってもいい人そう、私の印象も悪くないと受け取ってくれた様子……とかなり順調に進んだため「今旅中だから帰ったら会いたい、あなたさえ良いと思ってくれたら私はすぐにでも入居したい」とメールをしました……ところが彼女、「今ウクライナに観光の勉強をしに行っている。鍵を送るから先にお金を振り込んで欲しい」と。

端的に申しますと、詐欺でした。ベルリンの家探しサイトにはかなり詐欺が横行していて、だいたいその決まり文句が「自分は今ベルリンにいないから、先に1ヶ月分の家賃とデポジット(敷金)を振り込んでくれ、確認次第鍵を送る」というものだそうです。その知識だけは事前に獲得してありました。それと、友人に「いい人が入居の誘いのメールを送ってくれたの!この人!」と部屋の写真に添付された彼女の画像を見せたところ「いい感じのポートレートを添付して送られてくる家のオファーは詐欺だよ」とのことでした。マジか……

忘れていました。ここはドイツです。「愚者は経験から学び、賢者は歴史から学ぶ」と言ったビスマルクは初代ドイツ帝国宰相でした。つまりそういうことでした。私は圧倒的に愚者。歴史(他人の経験)から学んでいないからです。そういう伏線だったかー

家探しもう逃せない!とかなり意気込み慎重なやりとりをなまあまあ長い期間にわたってしていたためにかなり時間を無駄にし、えっ、叔母が仕事で部屋を空けたから入れてくれる観光学を学んでいた彼女は、幻だったの……?とめちゃめちゃショックでした。私の中ではもう彼女が実在するものだと思っていたので、かなり動揺しました。詐欺怖いねえみたいな話を友人としながら「まあ自分は引っかからないだろうな」と思っていたのですが、ダメですね。油断する人間ほど引っかかります。本当に傷つくからやめてほしい。こちらは焦っているんです。

そんなわけで9月半ばにベルリンへ帰ってくるも家がなく、家探しをしながらホームレスとして最近は気さくにやっておりました。いや嘘。かなりキツかったです。帰る家がないと人は何もできなくなる。今夜自分がどこで寝るかを決められないとそれだけで集中力やあらゆる気力が目減りします。今は家を見つけることに成功して順調に暮らしておりますが、10月末までは1ヶ月以上住める家がない状態でした。(家なし期間中ご協力いただいた皆々様、本当にありがとうございました!)

ホームレスしていた間はだいたいMixB(コミュニティサイト)や旅行で部屋を開ける友人の家を又借りしていました。大部分はそうやって得た家でなんとかしているのですが、どうしてもソリの合わないところは友人宅に泊めてもらったり安いドミトリーのホステルなんかに住んでいましたね。ベルリン市内の激安系ドミトリーホステルはほとんど制覇しました。一番面白かったのは8人部屋で7人男性(全員上半身裸)の部屋です。謎の緊張感がありました。それと、家のない事とは関係なくひとりで旅行に行く際最安ドミトリーに泊まるのですが、そういったところを渡り歩いているとかなりドラマがあるのでまあまあおすすめしています。以前はパリの最安ドミトリーで「ラーメン作ってあげるよ…」とソマリア出身の人と仲良くなり作ってもらったラーメンが汁なしだったことがあります。調理場面を見せてもらったところ懇切丁寧にお湯を捨てていたので感動しました。パスタだね……

今回の写真は私が家なし時代足繁く通った植物園Botanischer Garten und Botanisches Museum Berlin-Dahlemの写真です。帰る家がないと勉強する場所にも困るので、植物園か図書館にばかりいました。夕方くらいになってくると急にぐんと冷えて、「野宿はできない……」となんどもしみじみと思ったのでした。北緯52度の都市の冬、家があるにも関わらずもう生き延びられる気がしなくなっています。皆さんにもどうか毎日帰る家がありますように!では〜

植物園のサイト: https://www.bgbm.org/

 

<プロフィール>

富田香織 Kaori Tomita

1998年生まれ。アーティスト。
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