写真編集者 酒井瑛作が考えていること

1. 写真との出会い、今のキャリア

Licaxxxが主宰する「SIGΣA FATなどで活躍するライター酒井瑛作。普段、表舞台には出てこない彼がいったいどのように写真界を捉え、ハッキングしようとしているのか。彼のつくる記事からは見えにくい酒井の思考について、改めて研究を始めていこう。

── まず写真に興味をもったキッカケはなんですか?

大学のとき、フリーペーパーを作っていて、そのときに雑誌自体に興味を持ち始めました。そこに載っている写真がだんだんと気になって、最初はファッションフォトから入ったと思います。写真を好きになったきっかけは雑誌なんですよね。コマーシャルと表現の中間みたいな写真から入っていった。それから、インディペンデント・マガジンのような流れがきて、若手でもめっちゃかっこいい写真撮ってる人いるじゃないかと。そこからどんどん興味を深めていったという感じです。

── 最初にフリーペーパーをやっていた以外の初めての仕事って覚えてますか?

初めての仕事……なんだったかな。「Sillyが正式な仕事としては初めてかもしれません。

── もともとライター志望?

就活をちゃんとやっていなかったので、流れ流れてライターになりました。

── 最初にインタビューしたのは誰だったんですか?

小林健太さんですね。なんとなく、始めは小林健太 (のインタビュー記事) から始めたいと思ったんです。

── 昨日改めて記事を読んで、「プリクラから入って来るか。そうきたか」という感じでおもしろかったです。

「Silly」というメディアの特性もあったのですが、小林健太さんは、アートの視点からインタビューされることが多かった。当時でいうと「美術手帖とか。でも、彼はカルチャー寄りの人間でもあるじゃないですか。

── そうですね。

だから、そっちの側面も聞いてみたいと思って、ポップな話題を中心に聞いていった感じです。けっこう込み入った話もして。例えば、禅の話とか。本当は載せたかったけど……。そういうところは削ってしまいました。

 

2. モチベーションの源流

── 私は酒井瑛作研究を始めたばかりなので、調べるほど自分の琴線に触れて行く様があって、驚きがありました。今日のインタビューでは、普段裏側にいる酒井さんが何を考えて、どのようなモチベーションを持っているのかということを聞きたくて。

インタビューしているのは比較的に若手中心で、同時代っぽい人。年齢でくくるわけではないですが、90年代生まれのプラスマイナス5歳ぐらいの人に声をかけることが多いかもしれないです。

── なるほど。

そういう人たちってあんまりインタビューが載ってない。それに、Webのポートフォリオを見ても、どんな人なのかわからないんですよね。だから、単純な理由から自分で聞こうと思って始めたんです。

── 90年代生まれを記録していくのは大事ですよね。私もそろそろ00年代生まれの作家も追って行こうと思っていますこのまま誰もアーカイブされない恐怖、みたいなものがあって。

めっちゃありますね。

── 写真家の活動できる場みたいなものを作りたい?

とくに若い人に関しては、あればいいのにとは思います。現状無いから、あるとしたらメディアだな。という感じですね。

── もうちょっとカルチャー寄りというか80年代に廃刊になってしまった雑誌たち。「写真時代」だったり末井昭さん近辺のシーンが、写真を投稿しあって作家を育てる流れがありましたよね。その後、廃刊になってからは92年にキヤノンの「写真新世紀」が始まりました。切磋琢磨しあうという雰囲気が95年ぐらいまではあったように感じるな、というのが私の印象です。それ以降はけっこう各々が苦しんでいるな、という気がします。

そうですね。僕も切磋琢磨できる場が欲しいと思っていて。写真家って性質上、個で動くことが多いじゃないですか。横の繋がりなど、一緒に活動する機会がほぼ無いから、そういう場が欲しいというのもある。

── その問題は大いにありますね。批評の場も必要ですし、いろいろ小さいところは頑張っているという状況ですよね。

あと現状について、写真の枠組みの中で自分に向けられていると感じるメディアやシーンが無いという印象があって。肌に合うものというか。

── ああ、それは実感しますね。

例えば、アートブックを扱う本屋に行くと、なんだか自分が場違いな存在だなと感じてしまうことがあって (笑) ざっくりとした個人的な感覚ではあるのですが、現状は、よりリッチな方向にいくか、あるいは、いわゆるカメラ雑誌みたいなギークなものか、みたいなところしかリアルな場で、かつ、普通にアクセスできる中ではなくて。カルチャーど真ん中で写真をやるというメディアやスポットをあんまり見かけないという印象です。

── 写真雑誌が日本に一冊も無いという状況はちょっと辛いですよね。

一冊もないということはないですが、自分的にはまだまだ足りないと感じています。

 

3. 作家がトライアルできる場所を作りたい

── ぶっちゃけて言いますと、酒井さんは写真雑誌作りますよね?

……いつか作りたい。

── ですよね。そのあたりも実際に (ここに) 載せるか載せないかは別として聞いてみたいと思っていた一大トピックです。

んー、なんだろうな。…………年代的なところで言えば、写真家ってのはしょうがないけど30代ぐらいでも若手って呼ばれるじゃないですか。

── そうですね。

その下もやっぱり扱いたいっていうのがあるし、フックアップするとか上から目線なことではなく、一緒に上がっていきたいです。切磋琢磨っていうところはまさにそうで、30代以下の人たちでも、トライアルできるような場所を当事者発信で作ってみたい。

── 展示はやっぱり東京ではハードルが高いし、トライアルの場としてピンときます。ほとんどの写真雑誌もカメラを売ることに注力していますものね。

アート誌ももちろんありますが、単純に新規参入しづらいし、循環が起きていない感じですよね。写真の伝え方もリッチな方向にいくのもいいのですが、そうじゃなくてもっと……雑にっていうとアレですけど、なんて言えばいいのかな。

── チープというかキッチュというか、良い単語が見つからないんですけど……。

そっち寄りというか、リッチ方向じゃない見せ方でもいいじゃないかという単純な感覚は常にあります。

プロフィール

酒井瑛作|エディター / ライター
1993年神奈川県生まれ。立教大学社会学部卒業後、フリーランスとして写真家へのインタビューやヴィジュアル・カルチャーに関する記事を執筆。主にアート、カルチャー領域の媒体で活動する。また、広告プロダクションにてプロジェクト・マネージャーとして勤務し、編集・執筆業と制作業を同時に行う。

Writer : 立花桃子
Photo : 石田祐規