渋家分離派を知っていますか? 「渋家分離派」はプロジェクト渋家から派生した「美術に特化したチーム」です。まだ結成3ヶ月なのに、順調に作品が売れていて、web版美術手帖にも掲載されました。いったい何故? どうして? どんな卑怯な手を使ったの? というわけで、今、ゴリゴリに活動する渋家分離派のメンバーにお話を伺いました。
──そもそもの質問なんですが、渋家分離派ってなんですか?
って何ですか? 何ですかって何ですか? 何ですかってなんですかって何?
──?? 「渋家」と「渋家分離派」の違いについてです。渋家がクラブシーンに特化してきてクラブシーンに身体が持っていかれちゃってるから、逆に展示に特化したチーム──または新しい渋家の窓口──という認識を私はしています。でも、それって私の中での解釈なので、間違ってる説明だなと思っています。ここで改めて藤田直希の口から 「渋家分離派」という機能について教えてもらえると嬉しいです。
そもそも話でもシブハウスっていうのが「齋藤恵汰の作品だよ」っていうところがあってその所属する中の人というのも含め、そのコミュニティー自体が作品で、齋藤恵太©ていうハンコみたいなものがいつも付いてくる。その齋藤恵汰がウザくて。昔のように組織に影響を与えてるわけではないし、俺は彼のことよく知らない。今のメンバーみんな彼の影響下にあるわけじゃない。今知らずにいる人同士で影響を与えているから。
新しく大きなアートシーンに作品として売りたいと思った時に、どこまでもその評価がついてくる。「いいか、凄いのは齋藤恵汰じゃなくて、実際に作品を作っている俺たちなんだぞ」という気持ちですね。範囲を決めて、渋家株式会社のように名義を分けて作品を出すように、別の名義として分離して活動することを目的としています。
それぞれの展示で作家を招待したらその招待した人やチームメンバーのうち誰か(浅井康平 今井桃子 藤田直希)がキュレーターをやって展示を作っていく。というのが大枠です。
──できたきっかけは?
何でできたのかって、わかんないっす(笑)
僕はたまたま最初に招待されただけなので。
──なるほど。どういう流れで結成されたのか、知っている範囲で教えてください。
渋ハウスメンバーの今井桃子が渋ハウスに参加できない状態が続いていて大学にも行けず、引きこもりになっていたんですけど、去年の冬、武蔵美4年生の浅井康平(以下、さいこ)という人間が卒業制作の助手を募集していてそこで今井桃子が名乗りをあげた。
卒業制作が終わった後も二人で何かしたいという思いが残ってた。1年前のワタリウム美術館でパープルームの個展があった時に今井桃子と梅津庸一と話して渋ハウスと一緒に何かやりたいねっていう話をずっと今井桃子は覚えてて。じゃあパープルームのゲルゲル祭に行ってまた梅津庸一と話そうで一週間ぐらい二人でパープルームに通ってそこでURANOの展示の話をいただけたんですよね。
で、なんで俺が呼ばれたかって言うとそのワタリウム美術館のパープルーム個展に桃子と一緒にオープニングと最終日のトークショーに行ったんですよ。いつかパープルームと一緒にやりたいみたいな話は俺もなんとなく覚えててパープルームのメンバーの何人かと話したり、あんどーさんの小作品を買っていて今も実家に飾ってあるんですよ。
でウラノの展示では写真と映像で渋ハウス分離派のイントロダクションをやって欲しいっていう要求が梅津庸一からあって渋ハウスの写真家として藤田直希が呼ばれて、更に自分がシブハウスのNatalie Lorenze(以下、ナタリー)というヴィジュアルアーティストを呼びました。ナタリーはアメリカの大学でジャーナリズムの勉強などをしていて卒業後、日本語を勉強するために日本に来て渋ハウスに住んでいます。
──URANOでの展示についてご説明いただけますか?
URANOの展示では今回分離派として3つの作品が展示されています。「大きなアクリルマウントの集合写真」と「分離派電光掲示板」と「ナタリーの映像作品」とそれに付随した本棚のインスタレーションです。
──意外と作品数は少ないんですね。数を絞ってクオリティ重視にしたのですか?
製作時間が短かったので、それぞれメインの1作品に集中しました。ただめっちゃ金かかりましたね、アクリルマウントで9万ぐらい、電光掲示板で3万ぐらい。あと”さいこ”が名古屋から毎週末新幹線で新幹線とか夜行バスで東京に帰ってきてたんで、それの費用に10万近くいってたりとか。………メンヘラなので桃子が心配だから帰ってきちゃうんですよ。
──えっ、2人はどういう関係なんですか?
──なるほど。察します。
さいこが新人研修で名古屋に行ってて、昨日ぐらいから東京戻ってきたんですけど、4月の最初、ちょうどURANOの時期はずっといなかったんですよね。搬入も3日前から始めてたんで、まあでもこのボリュームなら1日で終わるとか思ってたら映像が終わらなっかたりインスタレーションが決まんなかったり、電光掲示板が分離したままだったりして結局3日フルでかかっちゃって。その間にも、ナタリーと連絡取れなくてなって俺が探しに行って、でも俺が力尽きて品川のベンチで寝て、それを桃子が探しに行って、ギャラリーから誰もいなくなるみたいなマジ分離しちゃったエピソードあったり、ステートメント巡って俺とさいこが喧嘩して、泣きながら桃子とキンコーズでzineを入稿するみたいなことがあったりとかなんかしんどかったですね。
作品について
アクリルマウントの集合写真(上画像)っていうのは三鷹にある今井桃子の家で撮った写真です。家の壁がピンクでめっちゃファンシーな空間で。なんか俺らが集まり始めてすぐ、4月の頭に桃子がムサビがある鷹の台から引っ越して、それを俺が一緒に手伝った。何もないピンクの部屋にダンボールだけある空間でここから始めようって。そこに最初集まって展示の話したりとか、家の真隣が酒屋だからそこで買ってだべったりとか結構最初は始まるぞっていう気持ちはあの部屋で温めて、そこで原初のエネルギーみたいなものを形にしたいなって思ってたんです。けど、四人で集まれたのって結局あんまりタイミングがなくて。衝突があったり物理的な分離があったりして、なんかあんな綺麗に並んでるけど全然そういうわけじゃなくて、なんか「ニセモノの連帯」と言うか、現実感が希薄。綺麗なアクリルマウントとかも、周りのその他の作品は絵画で立体的な油絵や木彫だったり、壁に投影された映像であったりとかざらざら、でこぼこ、さらさらといったテクスチャーのものが多かったんで、あえて本当にツルツルした透明な質感を与えたくてアクリルマウントっていう方法を選んでみました。
──結成してすぐに分離派の拠点を獲得したんですね。
今井桃子はムサビの近くに家を借りてたんですけど、さいこの家が三鷹にあることもきっかけに、「新しい物件が欲しいよね!」っていう話で周りと動き出してすぐのタイミングで新しく吉祥寺と三鷹の間っていうすごい良い立地にある場所に拠点を作ることができました。
──作品の説明に戻させていただきます。電光掲示板の作品はなぜ作られたんですか?
そうですね。URANO製作の後半は自分は展示に向けてのzineの作成であったりはさいこには名古屋でステートメントを書いてもらっていて、ナタリーはがっつり映像製作に入ってもらいました。お互い個人制作のフェーズに入って集まることもなくてっていう状況の中で、今井桃子が突然展示の搬入の前々日に電光掲示板を買いに秋葉原に行って、したこともない電子工作をして。
──Twitterで拝見しました。起動したら一瞬でショートさせて「3万円溶けたわ」みたいな感じでしたね。
搬入当日に秋葉原に持ち込んだらなんとか治って搬入に持って行ったけど、きちんと壁掛けできなくて。ギャラリーの方も「ヤバいもん持ってきたな・・」みたいな反応で。結局翌日、専門家みたいな人を連れてきてもらってなんとか高いところに飾ってもらうことができました。
話を戻しますね。なぜ電光掲示板を設置したのかというと、名乗りを上げる以上かっこよくやりたいなという思いがありました。詳細は作家の今井桃子にぜひ直接聞いてみたらいいと思いますよ。普通のテンションで搬入直前に電子工作始めないと思うんで。
──映像作品はどういったものなんですか?
映像作品はナタリーが初めて作ったバーチャル3Dの作品がとても素晴らしいもので、今回の展示でも3 D 空間と三鷹の拠点の家での実写映像の融合っていうものを新作で作ってもらいました。彼女の好きなインターネットカルチャーとか、vaperwave感と新しい実写作品とを融合させて。他の作品は新作のzineと映像作品のためのインスタレーションというボリュームがあります。その展示空間にパーティールームに横断幕で「ずるずるのつながり」っていうキャプションを付けられたりとか。本棚にある菅井早苗と、としくにの大喜利帖とかは激レアなので見てくれると嬉しいです。新作のzineでは、渋家における藤田直希、今井桃子と、分離についてという物語で写真を組みました。
(菅井早苗=5代目渋家代表、としくに=2代目渋家代表)
──ありがとうございます。展示のレセプションを終えて、感触はどうでしたか?
でも最終的にはレセプションに大木裕之とか磯村暖とか、渋ハウス代表のこういちとか来てくれて。大木さんと今井桃子が高知ぶりに1年越しの再会をURANOでするっていう出来事があったり。高校時代に桃子が招待作家として参加していた、イノビエンナーレというビエンナーレで大木さんと出会っていて。僕は大木さんとTAV GALLERYで出会ったりとシブハウスにも遊びに来たりとか何度もあって彼の作品とかも見る機会があって、あとなんかクラブに行くと結構出会っちゃったりとか短い期間で会うことがあって桃子と大木さんを合わせようとかしてたりしたんですけどなかなかタイミング合わなくて。それが今回URANOの展示作家とURANO所属作家という形で再開したって言う。分離派も作家同士としてに大木裕之と関わっていけたらなって気持ちが強いです。
MAGNET by SHIBUYA109 (以下、MAGNET)
渋ハウス10周年展示&パーティー
今回の展示テーマは
「調子乗りすぎてホームレスになった美大のメンヘラ」 です。
今回のテーマを設定するにあたって直面した社会問題が、美大生の貧困。制作費が高く、自主企画展が困難、または制作活動を続けるのが困難。
でも実際ホームレスになるかって言うといろんな理由があってそれを回避できるんですよね。例えばまあ元々普通に親が太いとか友達が家に一緒にシェアハウスしたりとか結婚とかヒモになって家を確保したり。
私たちは今回、選択的にホームレスをやる。
日本では芸大取手キャンパスの近くで美大の廃材を駆使してくらす「仙人」擁するグループであったり、海外だとベルリンのスクワッド、Tachelesであるとか、NYのものすごくアグレッシブで商業的なホームレスなどにインスピレーションを受けて、ここ東京渋谷でポジティブなホームレスという概念を展開しようと思っている。
「調子乗りすぎてホームレスになった美大のメンヘラ」ビジュアル MAGNETにて
メロンとメロンパン
──今回の展示である「渋家10周年」の見所は何ですか?
アングラ劇団の廻天百眼や万有引力で衣装を作ったりしている舞台衣装・舞台美術の姫路柾実による服とそれを囲む空間ってことで各々の作者も自分がホームレスになったらっていう過程で作品制作してもらっているので、一人違うストーリーがあってホームレスとしてその場に存在しているので、そこにいて展示して説明している作家とかもパフォーマンスとして見て欲しいと思ってます。
──分離派は現在6人いますよね。これから渋家分離派としてメンバー募集をする予定はありますか?
MAGNETではURANOの4人(今井桃子、藤田直希、Natalie Lorenze、浅井康平)に加えて、実は4人のメンバー(姫路柾実、でぃれ、青木理紗、reiki suzuki)を追加で招致しているんです。
ただ、分離派のメンバーという概念では人数は関係なくて、興味がないんです。展示とそのコンセプトごとに適切に人員が配置できれば良いと思っています。
現在は6月以降のパープルームとの合同展を計画中、続報を待たれよ。
「調子乗りすぎてホームレスになった美大のメンヘラ」ビジュアル MAGNETにて
──梅津庸一という男は一体何者なんですか?
名付け親というか……。
──ゴッドファーザー?(あまり聞かれたくないのかな?)
んー、きっかけは俺たちの中にあって。多分それは俺が中からの動きで渋家文化祭をやることで、似たようなことはやろうとしてたから。さいこは外に出てそれをやろうとしてた。っていうのは昔のハウスのrei nakanishiとかスズキケンタとかその辺のことをずっと見てて渋ハウスって物にはすごい興味があったけど、直接は関わってなかったって言ってて。俺が渋家に入って出会う前に、桃子とは#G24Sで、さいことはオルギア視聴覚室で同じ時同じ場所にいたりとか。いろんなルートがクロスしたりしなかったりした3人がたまたま意気投合してっていうかその3人が散らばったり広がったりした中でまたそのクロスして戻ってきた先が渋家分離派みたいな感じ。その3人の中で上下関係とかあるわけじゃなくて3人ともそのキュレーターとしての存在です。
──なるほど分離派はキュレーターが所属しているチームなんですね。
一方で私達三人は全員アーティストです。構造としては今のところはアーティストのみを招致しようと思ってます。
──3人それぞれの役割を聞いてもよろしいですか?
そうですね、さいこが建築学科で主に空間製作であったりとかそのロジックの構成っていうのを担当していて、俺はコミュニティを作ったりとかギャラリーの間に入って販売や、コンセプトを立てるところ、今井桃子っていうのは彼女自身の生き方その表現者というか、アイコンですねやっぱり。展示でもパフォーマンスで表舞台に立つって言う形態であったりとか彼女自身の性質として周りに人が集まってくるっていう性質があって彼女自身の発する言葉が分離派の作品として機能するようにしていきたいと。
──私の中の認識だと今井桃子が分離派の代表のイメージがあるんですけれど、それは違うのですか?
アイコンとしてはそうですね。ただ代表というわけではないです。原初のメンバーと言うか、でかい内発的なエネルギーが彼女には宿っていると思っています。
今井桃子個展 渋家 2017 パフォーマンスの様子
──今後の展望について教えていただけると嬉しいです
はい。今現時点で決まっている展示が三本でURANO、MAGNET、パープルーム合同展の先にはパープルームの内部に侵入していくことや、ゲンロンや美学校、また中央本線画廊といった他のアートコレクティブに対してもちょっと接触を試みようかと思っています。
6月の渋家文化祭や、渋家の夏フェスZOOもジャックしようと思ってるので、夏までは途切れず活動していく予定です。
──発足したばっかりでこんな質問も恐縮なんですが、何年ぐらい続けようと思っていますか?
今井桃子が武蔵美を卒業するまであと4年あるんで4年は続けようと思ってます。その時までに私たち各々が力をつけて独立していったり、また新しいコミュニティを作って行ったりていうことが結構理想的な終わり方と言うか。でもまだ終わることは考えていないです。
──ありがとうございます。お話は戻るけど、先ほど「齋藤恵汰がウザい」と言っておりましたが渋家分離派というチーム名に「渋家」が入っていることについてはどう思いますか?
渋ハウスっていうのは梅津さんの要請で渋家と一緒に展示がしたいっていうところでできた名前なので最初はそんなに深い意味はなかったのかも。でも、いろんな人の考えや解釈を吸収しながらじわじわと存在感を出していきたいと思って。
「メロン」と「メロンパン」みたいな関係ですね。名前は似ているけど、実態は全然違うんです。拠点となる住居も異なっているし。ただいずれ分離派という名前自体も、分離する対象がなんなのかっていうのが我々の中で明確にしておく必要はありますね。例えばそれがポストギャラリーのようなものなのかもしれないしていうのはその6月のパープルームが終わってからお楽しみくださいと言うか。
──齋藤恵汰との接触がそもそも無いということで齋藤恵汰との分離はできていると思うんですが、今度は逆に梅津庸一門下のカテゴリの中に入ってしまいそうな気がしています。その辺に対する対抗策みたいなものがあれば教えて頂けると嬉しいです。
それで今回のMAGNETで行われる展示、『調子乗りすぎてホームレスになった美大のメンヘラ』というのはその一例だと思っていて、ある種のURANO展示へのカウンターというか。1回は取り込まれてもいいと思いますよ。パープルームとの距離が近くても、私たちは渋家っていうものが母体にあるわけで、その色々な組織に影響をされたりされながらもある種の独立性を保ちながら活動していきたいと思ってます。
なにより「渋家分離派」の構成員はパープルームよりも若く、渋家よりも若いので、一度別の文脈に取り込まれるということに対しては割と好奇心があって(笑)
毎回の展示のメンバーの流動性などでその独立性を担保したいと思っています。
──?? ありがとうございます。
<プロフィール>
藤田直希 FujitaNaoki
1994年生まれ。写真家。現在明治大学4年生。
2017年5月より渋家に住む。
2017年10月 shibuhouse zine vol.1「KENT」 release exhibition 開催。
2018年2月、渋家分離派に参加。
渋家分離派 (2018年発足)
渋家は2008年に齋藤恵汰によって生み出された大人数によるシェアハウスであり、上妻世海や〈Maltine Records〉を主宰する tomad など様々な人々が関わってきた。そんな渋家で活動する若者がパープルームが開催した「ゲルゲル祭」という民家で行われた展覧会を訪れたことをきっかけに結成した、渋家の派生ユニット。
<展示情報>
『共同体について』
会期:2018年4月21日〜5月26日
会場:URANO
住所:東京都品川区東品川1-33-10 3F
電話番号:03-6433-2303
開廊時間:11:00〜18:00 (金〜20:00)
休館日:日、月、祝
URANO
web版美術手帖
A-FILES
渋ゲキプロジェクト 渋ゲキ祭
渋家10周年企画「Home Party」
MAGNET by SHIBUYA109 屋上「MAG’s PARK」
2018年5月6日 (日) 15:30 – 22:00