作曲家・Yackleを名前で呼んで

Yackleは緘黙(かんもく)で仁義を通す人間だ。Yackleが堰を切ったように爆笑しているところを見たことがないし、同様に誰かに対して悪態をついているところも見たことがない。だからインタビューができると決まったとき私は飛んで喜んだ。まだ誰も知らないことを知れると思ってね。インタビューしようと決めたとき、私たちはいつものように過去のインタビューを参照した。インターネットで見れる情報は少ない。そこで以下の動画を発見した。Yackleの2016年のインタビューだ。過去から今への差分を写し取って「未来のYackle」を知るために跳躍していこう。だから、この動画からスタートしようと決めた。

 

 

2年前から今へ

 

──あの動画が高1のときだったんだ。今は高3?

そうです。今年度卒業です。

 

──動画の内容は覚えてる? あれから2年経ってどうですか?

変わったことはだいぶ大きいですね。当時はイベントを主催し始めたぐらいの時だったので。動画を収録したのが高1のときの3月ぐらいだったんですよ。あのインタビューの日の前日に、歯の矯正を始めていて、矯正器具を付けられた後だったのですごく喋りにくかった記憶はあります。

 

──あれを見てて、ブランディングをして一般に届けていきたいということを仰っていて、着々と実行しているなという感じがあります。

確かにそうですね。あのときのインタビューから思えば、思っていた以上に順調に進んでいますね。

 

──その動画のあとの12月に自分のサイトができたわけですね。

そうです。

 

──あと5日でサイトも一周年なわけですが、サイトのTOPに自分の写真があったりなど、音楽よりも前にキャラクターを出していってますね。

そうですね。自分自信を第1に出していく事は意識しています。

 

──そこで気をつけている点とか参考にしている先輩とかはいるんですか?

気をつけている事は、自分のしている事を中心において、音楽にもそれ以外にも目を向けてもらえるような形になるようにはしています。どっちみち、音楽にせよヨーヨーにせよ、自分がしていることなので、”自分のイメージを定着させよう”じゃないですけど、まずは知ってもらう事からだと思ってサイトもそのような形にしました。

 

──今メインの肩書は?

作曲家・トラックメーカーです。イベントが大きくなってきている分、イベントオーガナイザーの肩書での活動が大きく出てきてしまっているのですが、それよりも、曲を作るということを前に出していきたいので、そうなるように着々と準備を進めています。

 

──これまでの活動を見ているとパッケージにすごく気を使っていて、その源流はどこにあると思いますか?

元々、僕は音楽以外にもヨーヨーだったり、イベントをするにあたってもライブペイントなど、音楽以外にも色々なコンテンツを入れているので、様々な界隈と関わる事が多かったです。なので、webサイトを作る際にもそういうイメージを伝えていました。何をしているかという事の前に、まずは自分があっての音楽・イベント・ヨーヨーという形にしていきたいという思いがあって。

 

──名義をふたつもっていますよね。分け方や、分けたキッカケは?

Yackle名義は、自分の中の軸はあるんですけど、曲のジャンルにとらわれずに作っています。

Yuuki Yamaguchi名義の方は、音楽をやり始めるきっかけになったテクノ、エレクトロやアンビエント等のジャンルを好きなようにやるという名義で分けいます。極端な言い方をすると自分の好きなことだけをする名義ですね。

 

 

Yackleの設計思想

 

──初歩的な質問で申し訳ないんですが、「合法」が2016年8月に立ち上がったときって、なぜ「合法」って名前にしたんですか?

僕がイベントに橋を運ぶよりも前に難波のアメリカ村のクラブ街の摘発があり、一気にクラブが潰れたり、風営法が強化された時期があって。イベントを始めた当時、僕が16歳だったので、未成年がイベントをするにあたって風営法のことをいろいろ調べていて、クラブって一般学生からしたら怖いイメージがあるので、それを安全なイメージを見ただけで分かるというか、内容も完全合法なものという事を伝えられるように「合法」という名前にしました。

 

──このイベントも最初からロゴがあったの?

一番最初はロゴがなくて、三回目の開催からロゴを依頼して作り1年間使いました。その後はまた一新して今のロゴになっています。

 

──ニュースリリースを見ていると、まず最初にイベントのタイトルのロゴを出していて、ロゴを重視する理由ってなんですか?

フライヤーってイベントによって簡単に作られていたりするところが多い気がしていて、細かい所までしっかりしたものにすると、イベントのブランディングというかクオリティが一気に変わってくると思っています。なので僕はその点にも力を入れていきたいと思っています。もちろんイベント内容の充実さは絶対なんですけど、他のポイントもしっかり固めていくことによって、ひとつのイベントジャンルが確立されていくと思います。「合法」は特にそれを意識してやっています。

 

──ロゴを作るときにデザイナーさんとどのような打ち合わせをしているんですか?

ここはこういう風に、とか自分のイメージを伝えすぎると、そのデザイナーさんの良さが失われてしまう気がしていて、イベントのコンセプト等まとめた資料があるので、あえてそれだけをデザイナーさんに送って、その方の解釈で制作してもらうようにお願いしていて、出来上がったものを大体そのまま流れで使っています。

 

──じゃあボツ案というか、使われていない方の合法ロゴ案もあったりするんですか?

一応デザイナーさんが何案か出して下さり、そこから選んで最終調整して頂いて使うんですけど、デザイナーさんがロゴが送られてきてから、”このロゴのここはやっぱりこうで〜”みたいなやり取りはなく、その中から選んで”これで!”って最終Fixになります。

 

──「超合法」はどういうイベントなんですか?

合法の周年イベントですね。なので、普段よりも豪華にして、「超」という一文字の意味を全面的に出せるような「合法」になっています。

 

──開催地として沖縄・大阪・東京を選んだのはなぜですか?

最初の開催0年目が大阪のみで、1周年は東京と大阪で開催したんです。それで、1周年ごとに開催場所を1箇所づつ増やしていこうと思っていて(笑)。

 

──そうだったんですか! それはすごい企画ですね。

それで2周年目は、僕が沖縄に行きたかったというのもあるんですけど、周りで沖縄でイベントする人って少ないんですよ。沖縄のイベントじゃなくて、地方のイベントを沖縄でやる人が少ないので、あえて沖縄でやろうと思って開催しました。

 

──海外とかも視野にいれてるんですか?

そうですね、ゆくゆくはしたいなと思ってます。他国の音楽カルチャーの魅力を取り入れてイベントを開催して、それがきっかけで何か新しいことが生まれたらないいなと思ってます。なので「超合法」はいずれ、世界規模でしていけたら良いなと思っています。

 

──タイとかベトナムとか、そっちの南の方はどうですか?

興味ありますね。ベトナムとかは日本で行ったら沖縄の民謡音楽じゃないですけど、独特の音楽があるじゃないですか。それが元となってその国の音楽があると思うので、その地特有の音楽との組み合わせも試してみたいです。それこそブラジルのBaile Funkのカルチャーともやってみたいです。ジャンルで分けてしまいすぎずに音楽という大きな括りでやってますね。

 

──2019年はどういうイメージを押し出していこうと思ってますか?

来年は今よりも特にトラックメーカーとしてのイメージを確立していきつつ、イベントもパワーアップさせて続けていきます。ヨーヨーはいつも通りやっていきます。今年も世界大会に出場したりもしていて。実はヨーヨーをやってなかったら音楽もやってなくて。そういう流れがあってヨーヨーが好きで、ヨーヨーも広めていきたいです。

 

──(出身である)奈良県については思うところはありますか?

奈良にはクラブもないですし、ライブハウスもほとんどないんですけど、住むなら奈良がいいなって思っています。なんか落ち着くんですよね(笑)。理由はないけどなんか好きなんですよね。だから大阪に住もうとも思わないですし、関東行きたいかどうかというと今は奈良に住みたいです。

 

──今、生活の軸足は奈良?

そうです。

 

──ほとんど奈良に住んで、たまに東京?

そうですね。月1くらいで東京に行きます。大阪には30分ほどでいけるので。

 

──大阪のアメリカ村って僕ちょっと怖いイメージがあるんですけど、Yackleさんは怖いイメージはなかった?

僕、アメ村に行き始めたのは13歳ぐらいで、最初は音楽もやっていたけれど服が好きで。そこからの流れという感じだったので、当時服界隈の友達は沢山いたりして、怖いイメージはなかったですね。寧ろ今まで出会った事が無いような人達が沢山いるのでそれが面白いというイメージが大きいです。

 

──逆にアメリカ村のおすすめのお店とかありますか?

当時中1でアメ村で出会った友達が、今アメ村の古着屋の店長とかやっていて、そことかにはアメ村行ったら顔を出しています。落ち着くというか当時の気持ちのままでいられるというか。あとはやっぱりそれくらいの年齢のときから行ってるから、遊び場というイメージがすごい強くて、行ったら懐かしい気持ちになります。

 

──(取材場所である喫茶店の)ここに来る前は、killremoteの展示会にちゃんもも◎と行っていたって伺ってたんですけど、ちゃんもも◎と出会ったきっかけは?

初めましては、原宿のsoraxniwa(ソラトニワ)でされていたももさんのラジオ番組です。

その時はももさんと面識はなかったのですが、一緒にその番組をしていたカルロスまーちゃんとSNSで知り合って連絡を取っていて、流れでその番組にゲスト出演させて頂けることになって(笑)。それきっかけで仲良くしてもらっていて、沖縄のイベントにも出演して頂いたり。

 

──luteで一回インタビューが出ましたね。

そうですね。カルロスまーちゃんの番組で1度出演しましたね。

 

──なんで超合法沖縄にちゃんもも◎を連れて行ったんだろうと思って。

沖縄にした理由の一つにももさんが沖縄に行きたいって仰っていた事もあって(笑)。ココカラフェスという1月にあったイベントで、合法がワンフロアブッキングを担当していて、その時にももさんが合法で沖縄に行きたいって仰ってくださったのがきっかけで開催する流れになって。nagomu tamakiさんが沖縄出身だし、元々ももさんも一緒に曲を作られていたので、いい組み合わせだなと。

 

──これが沖縄ではじめてのイベントということで、どうでした? 会場のOutputの空気感とか。

会場のOutputの空間はいい意味で沖縄っぽくないというか、入る直前までめちゃくちゃ沖縄なのに、階段を降りたら音楽の空間みたいな感じに出来て良かったです。開催時間もあえて早い時間にしたんですよ。11時オープン、15時クローズ。朝から昼に終わるっていう。ほんまに合法すぎるイベントになりました(笑)。

 

──ランチタイムじゃないですか!

その時間にした理由が、その後に出演者の方もそれ目的で遠征してくださったお客さんにも、イベント終わりに沖縄の観光もできて、沖縄も楽しんでもらえるようにしようと思って。そしたらそれがすごいハマって良かったです。その時間でも沢山の方が来て下さって大成功でした。

 

──初めてで沖縄のOutput借りれるのすごいですね。つながりがあったんですか?

全くなかったですね。箱の情報とかも知らなかったので、サポートしてくださっていたnagomu tamakiさんに会場候補をリストアップして頂き、そこから直接僕が連絡とりました。

 

──イベント資料とはか自前で作るんですか?

そうですね。自分で作ってます。ブッキングの連絡一つのだけでイベントのイメージが分かるようにして、コンセプト等にもご共感してくださった上でイベントにご出演して頂きたいと思っています。

 

──そのあたりの〝作る意識〟みたいなものが、単に楽曲だけじゃなくて、そのイベントのイベントの見え方まで考えられていると思うんですけど、そういうのってヨーヨーのイベントとかで最初は考え始めたんですか?

いや、また別ですね。ヨーヨーは小学生のときから大人と喋る機会だとか、大会だったら人前に立つ機会があったので、そこの点ではすごく成長したというか、他とは違う経験ができた部分が多かったと思います。イベント主催の企画とか、自分のブランディングに関してはほぼ独学でやってきました。元々整理整頓とか情報をまとめることが好きで、その延長線というのもあるんですけど。あとは、合法でカメラマンや僕のアー写の撮影をしてくださっているTOKKUNさんというカメラマンさんの人がいるんですけど、中3の時にその人と偶然アメ村で出会って。当時は音楽のイベント情報とかは全く知らなくて、その時に色々教えて頂いたり、沢山の方をご紹介して頂いたりしました。TOKKUNさんに自己ブランディングは絶対に出来るようになったほうがいいと最初に言われて、そこから意識して始めた感じです。だから自分のアーティスト情報はブッキングが決定した際に全部まとめていつでも送れるようにしてあります。

 

──今は、高校生?

高3です。学校にもほとんど欠席なく通っています。

 

──両立とかが大変な時期ですか? そうでもない?

学校の休み時間とかに主催イベントのブッキングオファーメールをしたりしています(笑)。部活はしてないので、学校が終わったら基本オフみたいな感じです。

 

 

Yackleにどうしても訊きたかったこと

 

──法律についてどう思います?

いい部分もありますし、もう少しどうにか出来たらいいのになと思う事もあります。例えば風営法は、クラブで開催する=未成年は勿論飲めませんがお酒が出るので、難しい所なのですが、それによって折角その時に出来るチャンスがあっても経験出来ない事が多くなってしまう。もっといい観客に出来る事もあると思います。

 

──「合法」ってタイトルのつけかたたがすごい良かったので。ほどよいバランスじゃないですか。

ロゴとかも含めてなんですけど、合法って文字だけだと漢字だけで見ると圧迫感ある感じなんですけど、あえて合法って名前でロゴとかをポップに見せることによって、なぜかふんわりしたイメージになるというか、ポップさが前に出てくる。

 

 

──ちょっと野暮かもしれないんですけど、このメディアって20代後半が多いので10年後とかにどんな感じになってたらいいなっていうのをお聞きしたいです。

イベントに関しては、大阪と東京では名前が広まっていても、各地方ではそれなりにだと思うんですよ。海外に行ったら僕のことを知らない人ばかりなんで。それを10年後は、日本はもちろんアジア圏とか、アジア以外にも広めていき、ダンスミュージックやクラブミュージックは親しみやすくて、イベントは大人にならないと行けないだとか、怖い世界だっていうイメージを完全に無くしていきたいです。

 

──なるほど。イメージを変えたい。

そうです。あとは音楽、作曲方面に関しては今後も続けていって、自分の作る曲を沢山の人に聴いてもらいたいです。

 

──イベントの「MusicCreacion」ってタイトル、なんでシーンに対して責任を背負うような名前をつけてるの?

なんか自分にプレッシャーを与えるじゃないですか。ちょうどいい塩梅で。これくらいインパクトを付けないと。

 

──tomadについてはどう思ってる?

リスペクトする部分は多いです。たぶんその、軸としてる所がまた別なので。それでうまくやっていけたらいいなと思っています。

 

──そうなんだ。

僕はどちらかというと、良いと思わないことをするってわけじゃないんですけど、選択肢を増やしていき沢山持っているみたいな方向でやっているので。

 

──マーケットを広げていく、みたいな。

そうですね。なんていうか、一般的な方向へのアプローチも狙っていこうと思っています。けど、界隈を外すとかそういう意味じゃなくて、界隈をもっとそこにという。

 

──こういう仕事をしていると、孤独になりがちというか、そのへんはどのように精神バランスを保ってますか?

作曲もイベントもなんですけど、自分のやりたい事だけをしているんですよね。

 

──うんうん。

なので、 やっぱり自分のイベントが一番楽しいし、やっていかないと。大阪は特に。もう今「合法」の他にこのようなコンセプトのイベントは無いんですよ。だから続けていってシーンを確立させていきたい気持ちはあります。

 

──けっこう大阪愛というか。

そうですね。関西じゃないと出来ないことも沢山あるので。大阪で成功したら、他の地域で成功するぐらいの感覚で思っていて。大阪って特にイベントに人が集まりにくいんですよ。なので、大阪で大きくしてから東京も大きくしたいと思っていて、今年大阪で500規模のイベントをしたので、来年は東京も大きくしようと思ってます。

 

──なるほど。大阪がベースにあるんですね。人が集まりにくいのに500人って凄いな。

中田ヤスタカさんも仰られていたんですけど、高校生で個人的にヤスタカさんにオファーをするというのは今までになかったようです。

 

──そりゃそうだ(笑)

それがやっぱり大きかったです。僕がダンスミュージック聞き始めたきっかけがCAPSULEさんの曲からだったので、自分のイベントに中田ヤスタカさんが音を出してくださっていたのがすごい嬉しくて。

 

──これまで2年半やってきてブランディングもかなり固まってきたと思うのですが、その一方で自分がやりそこねたなって思うことや、この課題にチャレンジしたかったなって思うものはありますか?

それが、毎回のイベントでその時に思ったやってみたいこととか、課題というものを全部やっていってるんですよ。だから……無いって言ったらおかしいんですけど、今あるかって聞かれると無いですね。その時その時の企画する段階で「これやりたい」ってなったものはそのイベント内で全部やっちゃうんですよ。溜めないようにしてますね。イベントのときは特に。その時思ったことをその時にしないと、後でやったらマイナスになる気がしてるっていうか、マイナスになると思うので。

 

──宿題を作らないようにしてるってことですね。

そうです。連絡のマメさじゃないですけど、その時思ったことをその時やろうと。

 

 

 

<プロフィール>

Yackle(やっくる)

作曲家、DJ、イベントオーガナイザー、ヨーヨープレイヤー

HP : http://yuukiyamaguchi.com/
SNS : @yackle_yyy

 

text: 武田豪
Ph&text-edit: bug-magazine編集部
2018年12月15日収録