トラックメイカー・molphobia インタビュー

「もう恋なんてしないなんて いわないよ絶対」と槇原敬之が歌ったのはもう1992年の出来事で、それから26年のときが経った。トラックメイカー・molphobiaは齢28歳。今日は本音で喋っていいかな。そんな空気を漂わせて、耳元でささやいた。「今日はネタバレをしようと思う」と彼は3分ほど私に告白をしてくれた。すべてを知った私は、そっとインタビューのお願いをした。愛と友情で作り上げるトラックメイカー、molphobiaの言葉をどうか、聴いてほしい。あなただけに。

 

事実1:BackRayとmolphobiaは同一人物である。

 

──はい。今日はmolphobiaさんということでインタビューを始めますね。

はい。

 

──molphobiaとBackRayが、名義を統合するということで、お話を伺いたいというのが本筋でありまして。ですが、それだけだともったいないので、近況なども伺えたらと思っています。

今日はよろしくお願いします。

 

──まず、前回のインタビューから9ヶ月ぶりということですが、どのような心境の変化が?

まず、以前お声がけいただいたときに、なぜBackRay名義でインタビューを受けたかというと、Stagbeatで作ってる曲と自分がソロで作ってる曲の作家性というか、作品の質が全然違うものだったから、別人格としてインストゥルメンタルをBackRayで出してたんです。でも、CDをライブで売ったり配ったりするときに結局自分だから、別名義のこういうのもやってるんですっていう説明がめんどくさかったから。そういう説明をして渡してもmolphobiaって認識することが多くて、結局「molphobiaさんの音源」ってなってBackRayの音源とはならなかったから「もういっか!」みたいになったのと、BackRay名義で作ってたCDがちょっと反応があって、そのときに出したものを聞いてもらって良いと思ってくれた方から楽曲提供の依頼がmolphobia名義で来ることが多くなったので同一人物であるということを明かそうかなと思いました。

──そうなんですね。ここ最近ではどんな曲を提供していますか?

MONJU N CHIEっていうユニットで、よくライブのオープニングでやってる曲の「MNC」があるんですけど、それのビートを作りました。作る経緯とかはもともとメンバーのカルロスまーちゃんと近いところで活動してて、カルロスまーちゃんのソロのときに曲提供してて、それでMONJU N CHIEにも提供しました。彼らのライブが好きだったりして嬉しかったです。あとは、rice water Grooveっていうグループがあって、彼らのシングルの一曲の「サマードロップス」のビートを作らせていただきました。rice water Grooveの翼くんという、曲も作っててラップもする彼をみたときにすごいかっこいいなと思って、自分から声をかけて音源渡して聞いてもらって。そしたら向こうも好感触で「よかったらまたイベントやるんで出てください」って出たのがきっかけで仲良くするようになりました。MONJU N CHIEとrice water Grooveが共同の企画のイベントを7月7日にやって、そのときに自分の音源だけでライブをやったときに「1曲作りませんか?」ということになって、今回提供することになりまして。今、SpotifiとかApple musicで配信されているので、よかったら聴いてみてください。

 

──以前インタビューしたときは、ゲームが土台となっていると伺っているのですが、molphobia名義のときはインスピレーションの元ってどこにあったりするのでしょうか?

音楽を始めたときに友達からつけてもらった名前で、始めたときはStag beatっていう中島晴矢 aka DOPEMENとの活動がメインだったから、自分がソロで出した曲はメダロットのゲーム音楽とか、あとは暗い曲とかがメインのテーマとしてあったけど、もうちょっとDOMEMENに引っ張られる感じで、molphobiaでは明るい部分を……キャッチーさもありつつ、暗いとかっていうよりかは「渋い」みたいなものをベースに制作していこうという気持ちが強いです。

 

──中島晴矢さんの影響が強いんですね。

最近人に提供することが多くなって、改めて実感したのは、もともと相方のDOPEMENのことを考えながら作るっていうメインだったなと。色んな人に声かけてもらえるようになって、声かけてくれた人の音源を聴いて、またその人のことを考えながら曲を作るっていう引き出しが増えたと感じます。元々は彼に引っ張られる形で、もちろん自分が引っ張りたいから先に曲を作って渡しちゃってとかもあるけど、最近は別名義で出したからこそ新しい人から声をかけてもらって引き出しがより増えたというか、考える人が増えて作る曲の範囲が広がったと思ってます。

 

──だんだんmolphobiaがソロで立ってきたという実感はあります。最初の頃はStag beatのDOPEMENに対応して識別するためにmolphobiaという名前があったような印象でした。それが、だんだんトラックメイクが強化されて、BackRayとして分離して、それがまた統合していくダイナミックさを感じています。

Stag beatのmolphobia〟を断ち切りたくて、BackRayという名前で発表できたので、この2人が統合することで1人のミュージシャンというか、アーティストとして、ようやくキャラが立ってきたかなという実感はあります。

 

──Stag beatとmolphobiaで作家性を分けている部分はある?

今はStag beatの活動は、前回のファーストアルバムのときは相方の中島晴矢のいうイメージとか曲を作るのが多かったので、今回のアルバムからは自分のテイストもけっこう強く押し出して行くようにはしているんだけど、いうて中島晴矢のテイストも殺したくないから、いい塩梅のところを探っていきたいかなと活動しています。molphobiaで人に提供したりするときは、BackRayで出してたような音源とは行かないまでも、やや自分の趣味性を強く出して……でも、歌う人のことも考えて、やや明るかったり渋かったり寄せていってます。前出したBackRayの楽曲ほど暗くなりすぎず、みたいな。そっちは自分主体で作れているような印象で、制作活動をしています。

 

 

事実2:スタジオ、事務所、自宅の三拠点を移動

 

以前とは違い、居住空間と制作場所を分け、渋谷にある事務所で曲を作っているとのこと。どのように制作環境が変化したのか聞いてみることにした。

 

──最近の制作スタイルはどんな感じですか?

今仕事をしているオフィスで合間を縫って作業することが多くなったので、事務所で機材を前みたいにバっと広げるわけにはいかないので、ターンテーブルは幅をとると思ったので、小さめのCDJ。それとPCをつなぐオーディオインターフェース。Cubaseっていう音楽ソフトと、小さいmidiキーボードというシンプルな形になってます。この環境でほとんどの楽曲を作っています。

 

──今は家やアトリエでの制作はしていない?

アトリエはたくさんの機材が置きっぱになってるから、そういう機材が必要なときとか。レコーディングが必要なときは、マイクとかが向こうにあるから必要なときは、前回、インタビューしに来てもらったアトリエでやってます。

 

──住居はその事務所ともアトリエとも分けているんですね。

そうですね。けど、制作やレコーディングが立て込んでいるときはがっつりアトリエに泊まったりもしてます。Stag beatの活動だと、自分はラップもやっているから、それのレコーディングで長期間泊まったりすることもあります。あと、そうだ。まだリリースされてないからアレなんですけど、イシズカケイさんっていう、DJ・トラックメイカー・ラッパーをやっている方がいて、その方のアルバムに曲とラップで参加していて、10月ごろリリースされるのかな。そのレコーディングが完了したから、ようやく録るものが落ち着いたから、アトリエより事務所で作業することが多いです。

イシズカケイさんのことも補足すると、イシズカケイさんは僕らよりずっとキャリアも長くて、地元が一緒なのもあって。あ! そうだ! そもそもStag beatのことをブログで宣伝してくれたことがあって! 僕らのことを知らない状態で、Apple musicでたまたま聴いて「今年よかったアルバムTOP10」みたいなので、他のメンツが豪華な中にランクインしてて、すごい嬉しくて。それで、自分から「ありがとうございます」みたいなことで声かけて。ちょびちょびtwitterでファボをしたりとかの関係値だったんですけど、自分からこの前BackRay名義で曲を作ったとき、聴いて欲しいなと思って音源を送って。そしたら「いいですね」って言ってくれて。そしたらアルバムを制作してて、曲で参加しませんか? と声をかけていただいて。イシズカさんの地元をtwitter上で知っていて「地元、僕一緒なんですよね」みたいな話をしたら、ぜひ地元についての曲を作りましょうという流れになって、今回アルバムに参加させていただきました。客演の人が豪華だったりとか、ブログに取り上げられたときの別の方で、タクティさんってラッパーも参加するみたいで、僕も楽しみなんです。ぜひ聴いていただきたいなと! っていう宣伝です(笑)

 

──お、せっかくなので、他に告知することがあればお聞きしたいです。

まず、Stag beatのアルバムが3月リリースをめどにレコーディングと曲作りを今やっております。それからStag beatから9月か10月にMVが出ます。それは中島晴矢の映像作品としてっていう形でもあります。Stag beatの音源を使って、Stag beatのyoutubeアカウントからリリースされると思います。今はまだ告知できる段階じゃないけど、人のアルバムに1曲2曲。あとはガッツリとアルバムの曲全部を作っているアーティストもいるので、そういうのがまたパラパラとリリースされたら告知していきたいと思います。

 

──アルバムのタイトルは決まってますか?

アルバムのタイトルは決まってないんですけど、前回が「From Insect Cage」っていう”虫かごから”っていう意味のタイトルだったので、その虫かごを脱したぞという意味のアルバムタイトルになっていくだろうなとは思っていて。今回のヒューチャリングアーティストが前回より増えていて。もうちょっと曲数は前回より減るけど、ボリュームがあるような、さらに内容を濃くできるんじゃないかなと思って、絶賛製作中。あとは、沖縄のBarrak art book fairにzineを出します。zineって作ったことなかったんですけど、音源付きのzineを作っていて、それのメインビジュアルとかメインコンテンツのイラストを描いてくれているのが、BackRay名義のCDのジャケットを描いてくれたDEMIというアーティストと作ってます。音楽とか絵だったりとかで、シャイ・内気な感じを土台に作っていて、ブックフェアで音源と僕らの作品集のようなものを出すために製作中です。

 

──それはmolphobiaさんとDEMIさんの共作の本ということですね。

そうです。

 

──内容って聞いてもよかったり?

僕が音源を作って、そのイメージでDEMIくんにイラストを描いてもらって、逆に彼からもらった絵で僕が音源を作って。というドンドンドンドンお互いに投げ合って作っているのと、僕の好きなミュージシャンで、Teebs(ティーブス)っていうコラージュアートもやって、音楽も作っている人がいて、その人がレコードのジャケットに絵を描いてアートワークを作っていて。それがアトリエに飾ってあって。音楽もやってアートワークもやることに憧れていて、前からちびちび作ってはいたので、そういうのを写真に納めてもらってコンテンツとしてそういうものを盛り込んだり。あと、制作風景の写真を撮ってもらって僕らの日常と、シャイとか内気な内面みたいなものをメインテーマに作ってます。メインはイラスト。それに音源も付けるよという内容です。

 

──それを作ろうと思ったきっかけは?

DEMIくんが去年まで仕事が一緒だったりとか、あとは気があうとか。一緒にいる時間が多かったからジャケットも依頼したし。プライベートもがっつり仲良くて、彼が沖縄に移住してしまうってのもあって。なんか僕から持ちかけたと思うんですけど、ブックフェアあるし、音楽付きのzineやんない? って。前回のアルバムのジャケットとか、やれて楽しかったし「またなんかやりたいね」って話をしてて。俺も沖縄好きで。それで声かけて、乗り気だったからやるかってなって今に至ります。ラップとかが乗ってるような音源じゃなくて、イラストを受けて思い描いたメロディーだったりとかそういう部分。言葉より音をメインに音源を作ってます。

 

 

事実3:Stag beatへの想いは無限大

 

──Stag beatってやって何年ぐらいだろう?

2013年ぐらいから本格的な活動始めてるから5年とかぐらい。

 

──その5年の歴史の中で、Stag beatのイメージが変化したことはある?

曲を作る立場でありながら、前に出たがりみたいなのもあって。ラップやりたい! みたいな。けど、最近は曲ばかり作りたくてラップはやりたくない。ラップは身の回りに上手い人とかいて、そういう人たちを聴いているとなんも別にやりたくないなっていう、のに気づいてしまったというか。そんなに上手いことできないなって。それに付随してか分からないけど、曲の方は昔よりできることが増えてきて良くなってきてるから、中島晴矢のことを考えながら彼とビートを作って、ラップとかは1曲2曲短いパートだけで、あまりラップをしないようにシフトしていきたいなってことに気づいたのと、中島晴矢のラップは結局うまいこと言えるし、うまいこと言ってるし、実際うまいし。フロウとか流れもいいから。

そういう意味でも僕は曲作りに専念したほうがいいって勝手に今は思ってます。そういう変化はあったかな。制作スタイル自体は初期から変わっていないかな。ややその、前はこのテーマでって曲つくったらリテイクはほとんどなかったんですけど、最近は彼も曲にこだわりが出て来たのか、リテイクが出てくるようになってきてすごい良いことというか面白いなと。彼は言葉を言いたいというよりかは、音楽を作りたいって方向になってきたのかなぁって感じ。やりがいがある。前は「こういうこと言いたい」ってのを彼が言って、僕がそれっぽい曲を作って「いいじゃん」っていう関係が変わってきて……。そういう変化はありましたね。

 

──そういえば中島晴矢さん結婚されましたよね。それで制作リズムに変化はありましたか?

前回のアルバムを作ったときは、中島晴矢と僕がアトリエに一緒に住んでいたので、深夜だろうが時間関係なくレコーディングできる状態だったんですけど、もちろん彼は彼の家庭があって、家が別にあるので、時間制限が設けられるっていう。レコーディングはここまでって。

 

──徹夜はできないんだ?

できません(笑) 前がだらだらしてたとも言えるかもしれないし、納得いかなかったらまた別日に録らなきゃいけないってのが、大変なような気もするし。けど、時間が決まっててその時間内に終わらせるのが良い気もするし、なんか、良いか悪いかは一概には言えないけど、そういう変化はありますね。あと前回は友達の結婚について彼がラップするっていうのがあったんですけど、もしかしたら自分の結婚について彼がラップするんじゃないか!?っていうのも思ってます。

 

──molphobiaがラップするかしないかの塩梅の判断は変化ありました?

そうですね、言いたいことがないというか、言いたいことは全部ビートのほうに詰めていこうってなってきているので、ラップをする曲も減ってきているし、もともとラップしている割合は彼のほうがラップしてる曲多いんで、今後もどんどん減らしていきたいし、減ってきてもいる。

 

──今後Stag beatをどうしていきたいなどありますか?

フェスとかには出てみたいとか思うし、有名になりたいとかっていうよりかは、遠征でのライブが増えていったらいいなと思って。これのためには色んな人に聴いてもらわないといけないから、広がっていて欲しいというのが一番の願いで、それが広がったら遠くでライブをしてみたいってのが素朴にある感じですね。あとは続けていきたいなと思ってます。

 

──逆に悩みとかはありますか?

HIPHOPの曲を作る人でサンプリングって手法を採る人が多くて、自分自身もメインの手法はそれなんですけど、その上から別のシンセサイザーで自分のフレーズを打ち込んだりとか、どんどんするようになっていてて今。自分からフレーズを考えるってことをStag beatでほとんどやったことなくて、次のステップに進むためにそういうのできないと全然、もうみんなスタンダードになっていることだし。全然追いついていけないなぁと思っていて、楽器をサンプリングしてきたものの上に足すという行為が難しくって。パッとできる曲もあるけど、後から聴いてみて「これ無いほうがいいわ~」ってなったりとか、バランスが見つけられないっていうか。そこで時間食っちゃって、なかなか人に渡せなかったりとか。細かい部分を気にするところが増えて、制作ペースがたまにガクっと落ちちゃうこととかが制作面での悩みというか。よりオリジナリティを出したいってことなんですけど。けど、みんなそういうところで悩んだり苦しんだりしているから、僕もそこで戦っていこう! っていう気持ち。最近はそこでうまくいったり、躓いたりの繰り返し。

生活面だと、レコーディングしにいく場所が遠くて。でも、そこが一番落ち着いて制作できたりするから、交通費がかかったりとか、意外と金足りないなとか。いまのギャラだけだと金足りないから、こう、もっと、音楽でお金稼ぎたいって気持ちは昔は全然なかったんですけど、たぶん音楽のためにお金が欲しいからもっと曲を作ってそれでお金ができたら、また音楽のためにお金が使えるから。仕事で稼いだ金は生活につかって、音楽で稼いだ金は音楽にしていきたいなと思ってて。もっと、音楽でも仕事の依頼が増えたらいいなと思ってます。

 

──最後に、中島晴矢さんに一言いただきたいです。

芸術活動とStag beatのアルバムを無理のない範囲で、いい塩梅でやっていってください。結婚おめでとうございます。

 

 

プロフィール

molphobia モルフォビア

1990年生まれ。幼少期からクワガタ愛好家。中学時代からダンサーとして活動。2013年にStag beatを立ち上げ、初めてラップを披露する。2016年に1stアルバムをリリース。現在はダンス講師とトラックメイカーの仕事を兼任している。相方の中島晴矢は現代美術家。
soundcloud-molphobeats
bandcamp-BackRay
bandcamp-molphobeats
soundcloud-stag Beat

text: K.W
pho: 小鳥直子