孤高のトラックメイカーBackRayがヒップホップ業界では有名なのは知っていた。だが、先月、個人名義で「Back In The Days EP」を発表したときは告知も一切しなかったにも関わらず、Facebookでは口コミで飛ぶように売れているのを知り、どうしても会ってみたくなって、青森県八戸市までお話を聞きにやってきた。小さなビルをスタジオに改造した部屋にお邪魔してみた。
── 今日は突然ありがとうございます。突然連絡したのにご丁寧に対応していただいて。
こちらこそ、青森までわざわざ来ていただいてありがとうございます。
── まずはCDリリースおめでとうございます。そして、今日は一押しの音楽を流しながらお話したいんですけど、いけますか?
大丈夫です。じゃあアルバムの10曲目の「tears of mermaid」を。一番思い入れがある曲がこれです。
編集部注 ※スタジオ内にある6台のスピーカーから「tears of mermaid」を流れてくる。部屋は全面が銀色で塗られていてなんだか異様な雰囲気。爆音で音が流れたので、インタビュー録音のために少し音量を下げてもらう。
── まず、事前情報がなかったので、BackRayさんは何歳なんですか?
僕は27歳です。1990年生まれ。
── 東京に出てくるつもりは?
いやー、今の所はないですね。イベントがあれば行きたいなと思います。
── これらの曲を作り始めたのは何年前ぐらいですか?
ここに収録されているのはちょうど1年ぐらい前からです。CDにしたのが2017年12月です。
── どうやって楽曲は作られているんですか?
100曲ぐらい作りかけのストックがあって、その中から作っていった感じです。今流している曲が一番語りたい曲で、僕、中学生ぐらいのときテレビゲームが好きだったんですよ。
── なんのゲームですか?
ゲームボーイの「メダロット」シリーズの2,3,4がとても好きで。メダロットが自分にとって思い入れのあるゲームで、それをサンプリングした曲です。僕は一人っ子の片親で、母親についていきました。母親が仕事に出ている間は小学生にして「鍵っ子」だったんです。兄弟もいないので、母親が買い与えてくれたゲームのひとつです。当時の僕は留守番をすごい嫌がったので、1人がとても寂しいかったんですね。寂しさを紛らわすためにゲームボーイとメダロットを買ってもらいました。それからは留守番をするたびに泣いていたのに、メダロットをやっているときは夢中になりすぎて、むしろ母親がいないほうがゲームに熱中できるし、こう、なんだろうな、僕は昔から没入するクセがありまして。ゲームの中の主人公に完全に意識が同期していて。
── 同一化してたんですね。
僕はもう天領イッキだと思いながらゲームをやっていたら寂しくもなく、ゲームの中に友達がいっぱいいるぞと。2,3,4は全部、山下絹代さんという作曲家・ピアニストの方が全編音楽を務めていて、質感が統一されているんです。「tears of mermaid」はそのままゲームのサントラの中に入っている曲名をそのまま引用させていただいているんですけど、この曲はメダロット3の海底のステージのBGMのサンプリングで、そのステージが僕、大好きで。そこに思い入れが強くて使わせていただきました。メダロットシリーズの中でも、3が一番世界観が壮大で。最後は宇宙に行っちゃうんですよ。その道中、海底のストーリーがロマンチックでした。アルバム全体の中でもこの曲が一番好きですっていうお話がまずあります。
── ありがとうございます。お話を深めて行きたいところなんですが、メダロットを知らない人のために簡単に説明をいただいてもいいですか? (メダロットやったことないや)
メダロットを簡単に話すと、僕は2から入ったクチなんで、もちろん1の主人公がいます。1の主人公はとても偉大なメダロッター (※メダロットを使う人) で、とても強い。前作で悪者をメダロットとの絆によって倒しました。その主人公の名前が「ヒカルさん」と言って、それが前作の主人公です。ところが2では、コンビニの店員さんとして出てきます。
── え、1の主人公が2ではコンビニ店員になってるんですか!?
近所のコンビニの店員さんです。僕は2からしか詳しくお話できないんですけど、2の主人公は天領イッキくん。主人公は周りの友達がメダロットを持っている中、「メダロットなんて、そんなオモチャにお金使わないよ」みたいな感じで、お父さんやお母さんから我慢しなさいと言われていて。だから主人公はメダロットを持ってないんですよ、メダロットを欲しいなと思っている中お母さんにおつかいを頼まれます。それでコンビニへ行くと、前作の主人公のヒカルさんと遭遇します。そこでメダロットを勧められて、おつかいのお金でメダロットを買って、そのメダロットと絆を深めていって世界大会などで活躍するメダロッターになっていくというお話です。
── 2,3,4では明確な悪役というのはいるんですか?
それぞれ別の悪役がいます。時系列順になっていて、以前敵だった人が今回は仲間だったりします。
── それはブチ上がりますね。
そうなんです。そういうの大好きなんです、僕。
── わかります。僕も「スーパーマリオRPG」が大好きで、クッパが仲間になった瞬間は小学生ながら盛り上がりました。
それも大好きです。友達の家でやってました。名作です。敵キャラも立ってて大好きで、オノレンジャーが好きなんですよ。
── (そろそろ音楽の話に戻さねば) アルバムの10曲がすべてゲームのサンプリングというわけではない?
本当はそうしたかったんですけど、それはできませんでした。音楽にハマったきっかけも小学生のときにあんまり趣味性は変わってないなって。スピッツが大好きで、それが自分のベースにあるのかなと。スピッツの悲しいメロディーの曲が大好きで、今回のアルバムは悲しい曲が多くてその影響はかなりあるなぁと。
── 今回のアルバムのタイトル「Back In The Days EP」という名前の由来は?
9曲目のタイトルで、リミックスなんですけど、Back In The Dayっていう曲を歌っているIllegalっていう人です。僕、けっこう昔に思いを馳せたりするクセがあって、Back In The Dayの曲のラップで「Back in the days when i was a teenager」って言ってて10代のころに思いを馳せるみたいなサビで歌ってて、すごい10代や小学生のころを思い出して作ったからこういうアルバムのタイトルになりました。
── 昔に思いを馳せるのは分かるのですが、小学生のころというのはすごいですね。特に大切な思いでだったりするんですか?
小中高って、もう、なんだろう、楽しすぎて。人格形成に関わって来ていると思っていて、相当美化されている (笑)
── 生まれからずっと青森に住んでいらっしゃるんですか?
そうです。
── 推しの曲が後半にある気がしているので、その流れで8曲目の「one little indian」はどういった曲なんですか?
これも元々ラップがある曲で、レコードにアカペラ (ボーカルだけが入ってるトラック) があって、他の人のリミックスが滅茶苦茶かっこよくて。僕でもかっこよくできるんじゃないかと思って。でも僕の中では超えられなかったっていう。
── ヒップホップではそういうシーンがあるんですね。
僕なにが好きってフリースタイルとかって、歌が上手くなくても、自分の好きなように好きな言葉をはめていける。音楽に簡単に携われる感覚とかが面白いなって。ハードル高いっちゃあ高いっていうか、高みを目指せば限りないけど、ある種、楽器が弾けなくても歌が上手くなくてもいいって、僕どっちも苦手だから、すごい親しみやすいところも好きです。特にフリースタイルとかだと自分の思ってもみなかったこととか言うし、そのまま歌詞に採用されるということもあるし。
── 影響を受けたアーティストはなんですか?
スピッツ。曲も好きだし、ボーカルの草野さんの歌詞の世界観も好きで、これは一番影響を受けた。
── それは意外でした。もっとブラックカルチャーからの影響が強いのかと思ってました。
小学生の時の衝撃がスピッツ。中学のときの給食の時間にヒップホップが流れて、興味をもって聴き始めて、いろんなアーティストを先輩から聞いたりしていて。曲を作り始めてからだとJ・ディラっていうデトロイト出身の亡くなっているビートメイカーがいて、それは自分にとって影響を受けていると思います。
── J・ディラで一番好きな曲はなんですか?
んー。(長考) Donutsっていう亡くなる前に出したアルバムで、これが好きです。あとは、うーん、J・ディラは選べないな。DJプレミアっていうビートメイカーがいて、サンプリングって昔はアーティストの許可をとってないのがザラだったし、それで訴えられるのを防ぐためにフレーズを切ってバラバラにして再構築するっていう方法を編み出した人がいて。J・ディラとDJプレミアとDJシャドウは影響を受けました。すごいベタな回答なんだけど。
── 個人的な交友関係で影響を受けた人いますか?
マッスーっていう友達がいて、高校の同級生で、ヒップホップを聴いていて。常に学校でも人気者で、聴いてる音楽とかも流行の最先端を聴いているようなやつで。ダンスも一緒にやっていて。僕、以前ダンスもやっていたんでけど。ダンスも伸びるスピードがすごく早くて、見た目はヤンキーキャラなんだけどゲームが上手かったり。人との接し方とかかなり影響を受けているところがある。中高はそいつと遊んでた、むしろ、助けられてたかな。
編集部注 ※ここで同居人が帰ってくる。(同居人がいたんだ!)
(同居人に向かって) いったん風呂はいったりするんだよね?
……あといろんな人を紹介してくれて、当時、中学校ってそれが自分のいる世界の大半というか。当たり前だけど。マッスーは隣の中学の女の子と付き合ってて、それで隣の中学の男友達とかもいて。隣の中学にヒップホップに詳しいやつがいて、吉川くんっていうんですけど、吉川くんとマッスーとよく遊んでました。
── ヒップホップに触れるときにダンスがあったわけですね。
クラブとかに行き始めたのも、地元にバーとクラブが合わさったところがあって。マッスーが老けていたのもあって中学生なのにキャッチに捕まって、「じゃあ行ってみようか」って。中学3年のときに。おれは普通の中学生顔だったけど、マッスーが老け顔のおかげでおれも一緒に入れた。当時はIDチェックとかも都会ではあったと思うけど、こっちではなかったから深夜イベントでも普通に行けて。吉川くんはガッツリはまっててイベントとかもやったりして。あの時期が自分の人生の中でピークを迎えたんじゃないかっていうところはあります。
── 当時は音楽を作ってなかったんですね。
当時は音楽を作るとは思ってもなかった。音楽編集ソフトっていうのがあるのは知ってた。吉川くんがダンスの音楽を編集してくれていたから。
── そうか。ダンスをやっていると音楽の編集をせざるを得ないところがあったんですね。
そう。けっこうぶち当たるところかもしれなくて、吉川くんもダンスを辞めていたけど、音楽の編集というところで関わってくれてた。
── 吉川くんという人はダンスを辞めてしまったんですね。
吉川くんはDJをやり始めた。家が裕福なところで、中高生にして機材をポンポン買っていた。DJをやっている先輩もいて、小沢先輩っていう。強面だけといい人で、その人の家も超金持ちで。だからDJって金持ちがやるものだとずっと勘違いしていた (笑) その人がいたからDJも教われるし、みたいな。それって音楽というカルチャーにハマっていったのはその辺かなっていう。遊びの延長で。ダンスとかも友達と夜に集まりたかった。集まる口実が欲しかったところもあります。正当な理由っぽいし (笑)
── (それにしてもこのスタジオ、周りが銀色ですごいな) 今のこの制作環境というのはどのようにしてできたのですか? 天井も含めて銀色なんですけど。
これは友達がやっていきました。けっこうマットな銀色で。もともと和室なんですけど、銀色なことによって神経が尖りますね。寝る場所としてしんどいみたいなのを思ってます。制作のときはとても良い。機材とかは自分で買ったものがひとつしかなくて、全部もらいものです。このレコードプレーヤーは同居人のだし、メインで使ってるPCは元カノから頂いたものです。
── (適当な機材を指さして) この機材は?
これは地元の知り合いから頂いて、こっちはXXさん、こっちはXXさん。昔働いてたバイト先の人が音楽を作ろうとしてた先輩が「結局、作らないや」ってもらったものです。
── アンプやスピーカーも?
これも貰い物ですね。
── 勝手に集まってくるというか。
やっぱ、「音楽やってるんです」ってボロボロの機材を使ってると貸してくれたり、頂いたりするんだなって。優しいな。
── この不思議なビルに住むようになったきっかけは?
んー、楽しそうにみんなが制作してたから。羨ましいなと思って。
── しかしこのスタジオ寒いですね。
暖房を効かせているのに寒いんです。窓も塞いでて。
── 同居人はどんな方がいらっしゃるんですか?
2人ですね。現代美術家と映像作家です。
── そもそも音楽を作り始めたのは何歳からなんですか?
22歳だったと記憶してますが、曖昧です。それまではダンスをやってました。基本的にダンスは見るのが好きってことに気づいてしまって。野球少年がおっさんになっても野球観戦は続ける、みたいな。そんな感じと一緒です。ダンスは見るのが好き。
プロフィール
BackRay
1990年生まれ。幼少からダンスの道を志し、22歳から音楽を作り始める。
青森の片隅から楽曲提供をしていたが、2017年12月に個人でEPを出し注文が殺到。
CD購入ページは今後設置するとのことで引き続き続報を待たれよ。
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Text : BUG-MAGAZINE編集部